放課後、なにをするでもなく僕は自分の席から窓の外を見ていた。

教室には誰も居ない、自分ひとりがぽつんと残っていた。
考えることはひとつだけ。
……僕は、桜美のことをどう思っているんだろう。
好きなのか?嫌いなのか?なんとも思っていないのか?
そんなの、決まってる。
僕は、桜美のことが――
「……いつまでこうしてるんだろ、帰ろ……」
ガタン、と音をたて立ち上がり鞄を引っつかむ。
そのまま重い足取りで、玄関へと向かった。


靴を履き替え、自転車にまたがる。
あとは正門から学校を出るだけ。
なのに、僕は何故か中庭に来ていた。
そこで見たものは、木の傍でうずくまる桜美。
「……っ!」
なんでこんなところに、と思案する前に駆け出した。
「桜美っ!」
大丈夫か、そう叫ぼうとしたとき――

「はぃっ!?」
ばっと桜美が顔を上げた。
「……へ?」
「う、海野君……?」
時が止まったみたいに、二人とも硬直する。
「えっと……なんか苦しそうだったけど、大丈夫なのか?」
「あ、うん……大丈夫、なんともないよ……」
「……」
「……」
「……はぁ、びっくりしたぁ」
がく、と膝を落とす。
「いや、でも良かったよ。
 なんともなくてさ」
「ごめんね、心配かけて……」
本当に申し訳なさそうにしゅんとする桜美。
僕が勝手に勘違いしただけなのに。

その後、しばらく二人とも黙り込んでいたが、
「……なぁ、一緒に帰ろうか」
ふと、自分でも驚くほど自然に、そんな言葉が出た。
桜美も驚いているのか、何も言わずに僕をじっと見ていた。
「送っていくよ、桜美は確か歩きだろ?自転車の後ろ乗っていいから」
照れくさくなって、ぷいっと顔を背けてみる。
そんな僕に桜美は、「うん」と短く呟いて微笑んでくれた。


帰り道、何故あそこに居たのか聞いてみた。
なんでも保健室に呼び出されていて、話をしていたんだとか。
そのあと、ふとあの中庭に足を運びぼーっとしていた、らしい。
そこへ僕が来たという訳だ。
「でも嬉しい、こうやって海野君に送ってもらえるなんて」
えへへ、と笑いながら背中にぴったりとくっついてくる。
「っ!な、なにしてるんだよ!」
「あ、照れてる〜」
「……っ!」
こんな夢みたいな時間は、あっという間に過ぎる。


「ん……到着だね。
 ありがとう、海野君」
「いや、礼なんていわれるようなことしてないよ」
「それでも、ありがとうだよ
 少しの間だったけど、とっても楽しかった」
それじゃ、と家の中に入ろうとする桜美。
楽しかった時間は、もう終わり。
――いや、これからだ。
「……明日、朝迎えに来るから」
「……え?」
ドアノブに手をかけたまま、桜美が振り返る。
「だって――

 僕たち、付き合ってるんだろ?」

両手で口元を押さえる桜美。
そう、これからもっともっと、二人で楽しい時間を作るんだ。
彼女が心臓病なんて、関係ない。
僕は彼女が好きで、彼女は僕を好きで居てくれる。
付き合う理由なんて、それで十分なんだ。
「……うんっ!」
涙目の彼女は、まぶしいくらいの笑顔で頷いてくれた。





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