桜美の病気は、思っているより酷いモノだった。
ただ、たまに発作が起きるくらいだろう。
そう考えていた。

心臓病は生まれつきで、完全に治ることは無いそうだ。
病状は不整脈――つまり、乱れた脈が頻繁に出る病気らしい。
それを抑える為の投薬、更に一定のペースを強制で生み出す機械をカラダに埋め込んでいる。
ペースメーカー、携帯型自動式除細動器。
脈が乱れると微量の電流を心臓に流し、脈を正常にするモノである。
そんなモノをカラダに入れて、彼女は日々を送っている。

「一応精密機器だからさ、電波とか電磁波とか危ないんだよね」
「……それって、携帯とかもか?」
「うん……まぁ、私携帯持ってるけど……」
苦笑しながら、自分の携帯を見せる桜美。
「っ!お前、自分の命を危険に晒すようなモノ持ってんのかよ!」
「……海野、君」
「……すまん」
思わず怒鳴ってしまった、怒鳴らずに居られなかった。
屋上で人が少ないといえ、周りの視線が飛んでくる。
「……いいの、何度も言われてるから」
「……」
「でもね、アレがダメ、コレがダメって言ってるとさ……
 私、一生病院の外から出れないよ?」
そうだ、何も携帯だけが危険なんじゃない。
電磁波なら電子レンジやテレビ、パソコンだって発生する。
携帯も珍しいモノじゃない、人ゴミに紛れれば周りは所有者だらけだろう。
「大丈夫だよっ!
 20cm以上近づけなければ誤作動はしないし、近づけても絶対ってわけじゃないから」
「……わかった、なら僕は何も言わないよ。
 だけど本当に気をつけろよ?」
「……うん、心配かけてごめんね」


放課後の帰り道も、桜美は僕にいろいろ話してくれた。
「大変だなぁ……そんなにいろいろあったら辛いだろ」
「うん、たくさんあったよ。
 苦しいことも辛いことも……」
僕の体を掴む手に力が篭る。
何かを堪えるように、ぎゅっと力強く。
「でもね、今とっても幸せ。
 こうやって皆と暮らせる今が幸せなんだ……」
「……そうか、そうだよな」
「このカラダも、お母さんとお父さんが与えてくれた小さな命も……
 全てが愛しくて、大切で、大好き」
そうして桜美は、目を閉じて静かに眠るように僕の背中に体を預けた。
……今にも壊れそうで、崩れそうな彼女を僕はどこまで支えてやれるのだろうか。
いや、支えてあげるんだ……なにがあっても。
と、急に桜美が声をあげた。
「……そういえば、いつまでも海野君じゃなぁ」
「……?」
「真矢君とか……まーくんとか……?」
なんだ、呼び方のことか。
……そういえば、僕も桜美としか呼んでないな。
別に無理して下の名前で呼ぶこともないだろうけど……
「……やめてくれ、それすっげぇ恥ずかしい」
「どうして、まーくん?」
「やめてくれ……」
それから家に着くまで、ずっと僕はからかわれることとなった。
……一応、「まーくん」とだけは呼ばないように念を押しておいた。




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