深い闇の中を漂っている。
そこは意識の奥、記憶の底辺。
あったかくて、なつかしくて……
そこで、誰かに呼ばれている。
――ああ、いかなくちゃ。
でも、夢はいつもここで終わり。


「……ト、アシット……」
「ん……」
眼に光が射し込む。
誰かがカーテンを開けたようだ、非常にまぶしい。
もう少しだけ……とありきたりな言い訳をして寝返りを打つ。
「ほら、いつまで寝てるの。
 いい加減起きなさい!」
「いでっ!?」
頭に鋭い痛みを感じて飛び起きる。
「休みの日だからってダラダラしないの。
 さっさと着替えてご飯食べちゃいなさい」
洗濯したばかりの服を顔に投げつけられる。
寝ぼけ眼で部屋を見渡すと、母さんが部屋を出て行くところがちらっと見えた。
時計を見ると、既に9時を過ぎていた。
さっさと着替えて下に降りよう……
ぱぱっと服を着替えて部屋を出る。
床には、使いもしない分厚い辞書が落ちていた。


「いってきまーす」
腕時計で時刻を確認する。
11時過ぎか……12時の約束には間に合うな。
自転車に乗り込み、ダイブセンターへと向かった。
市街地からビルの立ち並ぶオフィス街へ。
その中心にあるのがダイブセンターだ。
駐輪所に自転車を止め、中に入る。
職員にIDカードを見せ奥へと進む。
そこにあるのは、人が3人で入れるであろうという大きさのカプセルが立ち並ぶ部屋。
手近なカプセルの前に立ち、IDカードを認識させると機械音声の指示が出る。
それに従い、扉の開いたカプセル中へ。
『――転送開始します』
体がふわっと浮くような感覚に囚われる。
その感覚に身を任せる。
全身が電子化され、機械に読み込まれる。
最初は気持ちの良いものではなかったが、慣れてしまえばなんてことはない。
そうして、もうひとつの日常へAccessする。
『――電子化完了、ようこそVIPWorldへ!』

「――よし」
ぎゅっと手を握ってみる。
――大丈夫、どこも異常はなさそうだ。
カプセルから出て、ロビーへ戻る。
「なんだ、もう来てたのかスニ――じゃなくて、ロル」
「またリアルネームで呼びそうになったね。
 いい加減そのクセ直した方がいいよ、アース?」
「うるせぇ、どっちでもいいじゃねーか」
「まぁ……そうなんだけど、お偉いさんの決めたことだしね」
ロルは立ち上がると、行こうかと俺を促した。
二人でダイブセンターを出て、街を歩く。
気のせいかもしれないがやけに派手な格好をした人が多い気がする。
休みの日だからだろうか、とりあえず俺には到底理解できない格好の人も居た。


「よーし、射撃訓練所行こうぜ」
「また行くの?
 僕はもうやだよ、ペイント弾だらけにされるの」
「お前がヘボっちぃんだろうが、アプリで一時的に肉体強化すればいいのに」
指で何もない宙を横一文字に払う。
Open、と短く呟くとウィンドウが表示された。
適当にカタログのページを呼び出し、肉体強化アプリを探す。
「あったあった。
 ほれ、これなんかどうだ」
「バイオテロック社の新製品か、いいね。
 でも5万ティナーって高いよ」
「稼げ、んで俺とタイマン張れるくらいにはなって――」
「どいてどいてどいてー!」
叫び声が聞こえて振り返ると、女の子がこっちに向かって全速力で走ってきて――
「邪魔っ!」
「うぉっ!?」
――突き飛ばされた。
女の子が走り去るその後を、旧式の警備AIが追いかけていく。
「……これなんてエロゲ?」
「黙れ、っていうか何で追われてるんだ」
更に人を突き飛ばし逃げる女の子。
人ごみに紛れてもう姿は見えなくなっていた。
「気になるなら追いかけてみれば?
 さっきの警備AIに追跡アプリ撃ち込んでおいたから」
はい、とウィンドウを渡される。
街の全体図と赤いアイコンだけがあるシンプルなモノだった。
「旧式アプリだけど十分使えるはずだよ」
「よくとっさにそんなことが出来るな。
 っていうかどうして俺が追いかけなきゃいけないんだ」
「そりゃ面白そうだからだよ、ほら早く行って」
「……たまにはこういう刺激があってもいいか。
 それに運命の出会いかもしれないしな」
ウィンドウを確認すると、もう広場の方まで走っていた。
「うわ、早ぇ。
 じゃあ行って来る!」
「わかった、あとで連絡してね」
片手を挙げて答えると、俺は女の子の走り去った方向へと走り出した。



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