「どこまで逃げるんだ……もう相当走ったぞ」
ウィンドウ上のアイコンを確認する。
今は500mくらいの距離を保って追いかけ続けている。
アプリを使えばすぐにでも追いつけるが、念のためということで保存している。
一度使うと最発動に時間が掛かるからだ。
周りの風景は、ビル街とは違う工場街にまで来ていた。
工場街といっても、全て廃棄工場である。
現実とそっくりに再現はしたが使われないので、廃棄されボロボロになっている。
「……この中、か?」
アイコンが一定の場所で複雑に動き始めた。
どうやら目の前の廃棄工場に入ったようだ。
「……ここまで来たんだ、行くだろアース?」
ぐっと握りこぶしを作り、俺はゆっくりと中へ入っていった。


外見の荒廃振りとは違い、中は意外と綺麗であった。
だかかなり複雑に入り組んでいる、これだと追跡アプリも役に立たない。
舌打ちしながらウィンドウを閉じ、その辺のパイプを引っつかんだ。
なるべく音を立てないように階段をのぼり、廊下を横切り、部屋を確認する。
「ち……どこだ……」
焦りと緊張でパイプを握る手に汗が滲む。
だがきっと、顔はにやけているのだろう。
元々こういったコトが好きなのだ、ちょっとした冒険気分に浸れる。
それにいつもの「ごっこ」や「模擬戦」じゃない、実践になるかもしれない。

何分、何十分経っただろうか。
一息ついて、長い廊下の先を覗き見る。
「……居た!」
丸型の旧型警備AI、Z-EN型だ。
Aを逆にしたような口と、丸いモノアイがそのサイドに二つ。
白いボディのそれは、愛嬌があるとして人気の警備AIだ。
警備AIとしての能力は最低ランクだが、未だに町の警備には仕様されている。
コイツくらいなら、手の中の貧相な獲物でも十分仕留められる……!
数は3体、横を通り過ぎるのを息を潜めて待つ。
旧式に高感度センサーはないだろう。
モノアイでの認識……あって低感度の音センサーか。
壁に身を隠し、近寄るのをじっと待つ。
ゆっくりと浮遊し近寄る1体。
そして横を通り過ぎようとして――
「ふっ!」
短い掛け声と共に放たれる、俺の一撃によってあっけなく沈んだ。
ガッと床に叩きつけられ、エラー音の後にモノアイを黒ずませ停止した。
残りの2体に姿を見られる前に、即駆け出す。
いくら旧式とはいえ行動制限のウィルスくらいは搭載しているだろう。
打ち込まれたら最後、ワクチンを打たれるまで動くことが出来なくなる。

「application open, exe name "assist body Ver.2.54".
 strengthening of foot ―― full trance……!」
音声認識で肉体強化アプリを発動させ、2階への階段を駆け上がる。
相手に存在はバレてるんだ、一時的に脚力を増加させかく乱しながら戦えば――!
足音を聞いて追跡してくるAI2体、青いモノアイは今は赤く点滅している。
壁に隠れ、また不意打ちを狙う。
「……っ!」
飛び出し振り下ろしたパイプは、敵を掠めて終わった。
一撃目で折れ曲がった所為で狙いが狂ってしまっていた。
危険と判断した瞬間、体がくの字に折れ曲がり鈍い痛みが走る。
「っぅげ……く――!」
逃げる間もない、すかさず反撃に出たAIが腹に体当たりをお見舞いしてくれた。
苦痛に顔が歪む、胃液を吐き出さないように必死で堪える。
そのまま歯を食いしばり、ウィルスを打ち込まれる前にすぐに後ろに引いて蹴りを叩き込む。
脚力強化された足で蹴り飛ばされ、更に壁に叩きつけられて2体目も活動を停止した。
だがそれが限界だった、腹を押さえ倒れこむ。
加えて足の痛み、流石に硬い物を蹴り飛ばすのは相当堪える。
残った1体が近づいてくる。
クソ、どうする――!?
「伏せて!」
声と同時に横から炎弾が飛んできた。
咄嗟に顔を庇って伏せる。
物凄い熱気と共に飛んできた炎弾は、最後の1体に直撃した。
炎の中から現れ落ちたのは、黒く焦げたZ-ENだった。
「……す、げぇ」
思わず声が漏れる。
焦げ落ちたZ-ENを見つめる俺を、声の主は近づき見下ろした。
「バッカじゃないの?
 蹴り飛ばすとかよくあんな無茶するわね」
眼鏡の位置を直し、腰を折りずいっと顔を近づけてくる。
手にはシルバーボディの短銃らしきモノが握られていた。

間違いなく、ソイツは俺を突き飛ばしZ-ENから逃げていた女の子だった。



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